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同胞

 彼はシンジュク衛生病院を出、形だけを残して過去を失った街を通り抜ける。ビルの入り口はすべて砂に埋もれ、人の姿は見えない。死体さえない。幽霊のような感情の残像が浮かび、少し前までゲームの中にしか存在を知らなかった「悪魔」が闊歩している。大きな檻の中みたいだと彼は思う。サファリパークでもいい。彼は悪魔を動物かのように見つめては、ピクシーに「あんたも悪魔なのにヘンなの」といわれるのだった。彼は小さく笑む。

「何笑ってんの」そして首を横に振る。自分でも可笑しいと思った。悪魔が目の前にきたとて恐れがまったくなかった。だから自分も悪魔なのだろう、と認めるしかなかった。わけのわからない存在ではなかった。体に放り込まれたマガタマがすべてを物語っていた。体に浮き上がった模様も首裏に生えた黒い角も。街を取り囲む砂に足を取られ巨大な蟻地獄に落ちそうになろうと彼が人のように思念になることはなかった。自分は死んだのだろうか? シンジュクを抜け、地平線に揺らぐ蜃気楼に向かって歩きながら、彼は思うが、死ぬということさえすでに他人事のような気がするのだった。

 乾いた風が吹いてくる。鳥の羽ばたきとともに虹色の鳥――チンがあらわれる。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。チンは目の前にあらわれた身体にまじないのような黒い文様の浮かび上がっている少年――彼を見つめ殺意をあらわにした。彼はそれしか知らなかった。身体は毒でできあがっている。蛇を食らい身体にためた毒は大地を殺し、水を腐らせ、人を滅ぼした。鱗にまとわれた固い身体の中には目の前のものをすべて無に帰す本能しかない。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス。

 ヤツもまた同胞だ、と彼が思えば、すでに彼の道を共に歩くことにしている仲魔たちはあせったように、「違う、あれは敵だよ」と言った。そうだろうか? 彼は不思議そうにピクシーを見つめた。チンが同胞ですって!? だったらフォルネウスだってお友達ってことじゃない! あんたってやっぱ人間なのね! 

 彼はチンの前に立つ。チンの目に彼はもうただの獲物にしか見えない。コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……。チンの毒針が彼に向けられたとき、彼もまた腕を振り上げていた。中天に浮かぶ白き月が満ち、彼の目が赤く染まる。